捉えたプレス・切削・アルマイトの三拍子
09 December 2024
中国からの生産移管の風
捉えたプレス・切削・アルマイトの三拍子
「最近、タイの日系製造業で明るい話はほとんど聞きませんね」取材中何度も聞いた言葉だ。自動車の販売・生産の減少もあって製造業は全体的に軟調だ。その上、進出を加速する中国系企業との競争も激化し日系企業は厳しい戦いを強いられている。しかし、技術力と柔軟な営業力で逆風を順風に変え、飛躍する企業もある。 「ゼロコロナ政策」による都市機能不全の経験や米中対立を見据え、サプライチェーンの分散によるリスクヘッジで、中国からタイに生産移管が起こっている。金属プレス、異形切削からカラーアルマイトまで1拠点で一気通貫に行える技術力で、その風を捉えたのがゼニヤタイランドだ。 とはいえ、松尾文昭工場長は「中国の現行品を見た時『中国はここまでできるようになっているのか』と驚いた。それだけ中国のレベルは高い。中国は製造業の中心として多くの経験を積んできている。そことコストも含めて勝負しなくてはならない」と話す。 |
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右から松尾文昭工場長、 廣田佳弘MD、藤原上之GM
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ゼニヤタイランドは、アルミの金属プレス加工を中心にステンレスやチタンの加工を手掛ける錢屋アルミニウム製作所(大阪府池田市)のグループ会社。錢屋アルミニウム製作所は近年米国大手客先向けの音楽プレーヤーやスマートフォンのケースなどの部品を手掛けるようになり、弱電筐体業界では名の通った存在になった。
同社の技術力が一目でわかるカメラトップカバー |
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ゼニヤタイランドはコンパクトデジカメの外装筐体の生産を受注したことで2011年に設立された。しかし、リーマンショックやコンパクトデジカメからスマートフォンへの移行により、当初計画していた生産がままならず、スマートフォンの部品の一部などを作りながらノウハウや技術力を高め、現在日系の一流カメラメーカーなどの新たな受注を獲得している。 例えばカメラのトップカバーだが「アルミの板をプレスして、表面を切削してアルマイト着色。最後に印刷もしている。1カ所ですべてできるところは東南アジアでは少ない。アルミ外装の難しい形を、歪まず破れず一貫で後工程まで量産できる点で東南アジアトップクラスと評価頂いている客先もある」(藤原上之GM)と自負する。 「ポイントは金型の技術だ。絞り加工で1㍉の板を成形するが、大阪で築きあげ、その後長年かけて培ったプレスの技術をタイでも引き継いだおかげ」と松尾工場長が補足した。 |
日本の技術をタイで再現するのは一苦労だった。「技術を持っているタイ人をスタッフに迎え入れているが、なかなか積極的になってくれない。師弟関係の様にずっと我慢強く側について教えていった」(松尾工場長)。
人材育成にはもう一つ大切な面がある。一流の「カメラや車載の部品をやっている」という製品の求心力のほか「22年の売上に比べて、23年の売上は1・8倍、今年24年は2・5倍となりそうだ。そういう成長の中で実戦の数をこなしていけることが技術者のレベルアップにつながっている」(松尾工場長)とし、企業が成長することがスタッフの成長を促していると分析する。
正社員だけではなく、一般的に離職率が高く技術が定着しにくい派遣社員も「ある派遣会社からゼニヤさんの派遣社員は物を見る目が正社員以上ですね』と言われた」(藤原GM)というのが自慢だ。
工場の強みであるアルミ絞りプレス加工 |
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ブラザー工業の工作機械も多く並んでいた |
タイ進出の中国加工企業との競争激化
ゼニヤタイランドは自動車部品の製造もしていたがあまり強くなかった。自動車以外を伸ばす必要性に駆られ、鉄ではなく得意なアルミ加工に集中した。これがカメラメーカーなどの所謂「脱中国化」によるタイへの生産移管の風を捉えた。生産移管の流れは続いておりカメラ以外の製品にもアプローチを強めている。
「ここ数年は中国からの生産移管による仕事を受注してきた。しかし中国のメーカーや部品加工
業者がタイやベトナムにどんどん進出している。東南アジア内で中国系企業との競争になっていく」(藤原GM)と話すように、今度はタイ国内で日中の競争が激化しそうだ。
「実際に加工するのはタイのスタッフ。設備だけ揃えてもすぐに日本の様に製造できない」とし「タイのスタッフを育ててきた実績と、さまざまな加工の要素を組み合わせることで差別化していく。あるいは他の日系メーカーとのコラボも考えている」(藤原GM)とする。
また松尾工場長も「中国の技術は高いが、総合的にすべて強いわけではないし、さまざまな技術を組み合わせるのは日本人が得意とするところ」と補強する。
廣田佳弘代表(MD)は「価格のみで勝負する気はない。技術力を売りにした差別化戦略が錢屋だ」と強調し「75年培ったゼニヤのプレス加工、特に絞り加工の技術は相当の重みがある。社員も誇りを持っている。既存の技術の棚卸をしつつ、新しい技法にもチャレンジしていく」と力を込めた。
ブイの代名詞「ゼニライト 錢屋グループには、航路標識の世界的販売会社であるゼニライトブイ社があり、その受託生産として、岡山工場とゼニヤタイランドで製作を行っている。 航路標識を始めたきっかけは、港湾建設現場の従来の建設作業表示が竹竿の先に赤い布切れをつけたもので、日本国内である行政当局から夜間標識が無くて困っていると声をかけられたのが起点。「創業者社長が耐食性に優れているアルミパイプの先に灯器を付ければいいのでは、と思いついて製造した」(松尾工場長)。 ゼニライトというブランド名で、日本国内のシェアは8割、地方の漁師の間ではブイや航路標識を「ゼニライト」と呼び普通名称化しているという。また世界でもトップブランドであり、各国に供給している。 |